2020.05.12
2019年(令和元年)7月1日、改正された相続法が施行されました。
厳密には、「相続法」という法律はありません。民法のうち「相続に関する分野」の規定を便宜上、相続法と呼んでいます。
改正された相続法(民法)の一つに、相続登記と遺言に関する規定があります。
各相続人には、法律で決められた「法定相続分」という割合がありますが、もし遺言でそれ以上の不動産を譲り受けた場合には、急いで登記をしましょう、という改正です。
これまでは、遺言書で「〇〇に相続させる」と書いてもらった相続人は、急いで登記をする必要がありませんでした。登記をしなくても、自分が不動産を所有していることを他人に主張できたのです。
ところが、今回の相続法の改正では、登記をしないで放置しているのであれば、増えた取り分について、他人から否定されても仕方ない、ということになりました。
例えば、父親が亡くなり、相続人が妻と子2人だった場合を解説します。法定相続分は、妻が2分の1、子どもはそれぞれ4分の1ずつです。そして、父親が生前に「長男Aに自宅を相続させる」と遺言書を遺していた場合です。
改正前の法律では、長男Aは急いで登記をする必要がありませんでした。
仮に次男Bが事業に失敗し多額の借金を抱え、債権者がBの財産として、父親の家の4分の1を差押えたとしても、遺言書さえあれば長男Aの権利が優先されたのです。
ところが改正された相続法では、次男Bの法定相続分については、長男Aによる相続の登記と債権者による差押えの登記の早い者勝ち、ということになったのです。
これは、遺言書の存在を知らなかった債権者の期待の保護という側面もありますが、相続登記を怠った相続人への懲罰的取扱い、という風にも理解できます。
最近では、相続登記をされずに放置された不動産が、結果として所有者不明土地又は建物となり、深刻な空地・空き家問題として話題となっています。
権利の実情と登記の表示が一致するようにしていきたい、というのが制度の方針にもなっています。
実際に今回の法改正でも、相続登記を行った場合の不利益が生じる可能性も出てきました。
相続登記自体に期限が設けられたわけではありませんが、早めの相続登記が権利を守るための解決策となります。
遺言書がある場合には、一般的な相続登記と比べて書類集めに手間がかからないケースがあります。
もし遺言書による相続が発生した場合には、速やかに手続きを進めるようにしましょう。
久保 輝東